|
高橋 貞夫さん (木彫作家/「木匠 安曇野工房」主催)
信州の風土やイメージに合う「木彫 」
大正初期に源を発する「農民美術」。かつて、長野県の上田市が本拠地であったそれは、農業などの外仕事ができない厳しい冬の間、家の中でこつこつと木彫りや染色、織物といった手作業をしていたというものです。この農民美術の流れを汲むのが、地元大町出身の木彫作家である高橋貞夫さんです。
「当時さまざまな手仕事をやっていたんだけど、長く残ったのが木彫だった。材料である木がふんだんに手に入るし、信州の風土やみんなが持っているイメージに合うといった理由からなんだろうな」
そして、後に日本農民美術研究所が設立されると、高橋さんは第一期生として入所。同時に30名が入所したが、4年間みっちり研鑽(けんさん)を積み、卒業証書を手にしたときには、高橋さんを含めて5名しか残っていなかったとか。さらに4年間の研究生活で腕をみがいたのち、地元大町に「木匠 安曇野工房」を設立。23歳で自分の工房を築いてから57歳となる現在まで、この町の木彫の先駆者として精力的に作家活動を行ってきました。
芸術としての木彫を造りつつ、地域の地場産業となりうる商品も手掛けている高橋さん。その語り口からは、ふるさとである大町への深いいつくしみが伝わってきます。
「大町というところは木は豊かだし、彫ろうと思う自然のテーマも無限に持っている。そして何より人々が素朴なのが肌に合うんだね。だから、ここで出会った旅人にはいっぱい話してあげるんだよ。ぼくにとって宝である、この町のことをいろいろとね」
各地の民俗芸能が一堂に会するイベントを主宰
町や若者の活性化をするにあたって、自分に出来ることは何かと頭をひねった挙げ句、各地方の民俗芸能が一堂に会する「まつりin大町 北安曇」という一大イベントまで興してしまったといいます。その構成というのがとてもユニーク。数々の民俗芸能をただ淡々と上演するのではなく、観覧者たちが引き込まれるように2時間ほどの物語に仕立て上げたなかで流れるように上演するというもの。文化会館で公演し、構想から演出まで、もちろん高橋さんが手掛けます。
「出演者も裏方もみんな町民の素人ばかり。民間レベルで出発したイベントだけど、みんなが力を合わせて作り上げてきたものだから、そのパワーたるやすごいものなんだ。今年で8回目。また、町がひとつになるときがやってくるよ」。町の人々とのふれあいも、また刺激となって自分の作品づくりに生きてくる。高橋さんの心も体もどっしりと大町に根づいていて、離れることを知りません。(写真/高橋さんの最新作「星生樹生(せいせいじゅせい)」とともに)
